駆け引きアンチテーゼ


 毎回テストで上位三位以内の成績をキープしている臨也と、下位三位以内をキープしている私とが一週間後に予定されているテストの点数で勝負することになった。あえて何故だとは聞かない。あの外見だけ爽やか野郎は死ぬべきだ。
 ちなみに勝負は、私の総合得点が臨也の総合得点の半分を超えていたら私の、反対に半分以下だったら臨也の、お願いをなんでもいいから一つだけ聞くというオーソドックスな内容。一つだけ違うのは相手の点数より高かったら、とか言うのじゃないこと。ルールを決めたのは勿論臨也だが、完全に馬鹿にされている。

「俺はわざわざが勝ちやすいようにしてあげたんだよ? 反対に感謝してもらいたいよ」

 なんて言われちゃ黙ってられない。あの臨也のお願いごとというのが計り知れなくて怖かったのもあるけど、その一言でこの勝負が一層負けられないものになったのは確かだった。そして、勝ったらのお願いもしっかりと決めた。こいつと二度と口を聞かない。



 それまでの私はテスト前でも勉強しないという、馬鹿なのにチャレンジャーなことをやってばかりいて、よくて合計点の二割くらいがとれた具合だったから、死ぬ気で勉強をした。全然勉強をしていないところに、いきなり始めるというのはかなりキツかったけど、同じ赤点仲間の静雄も誘って勉強会をしたり、成績優秀者の門田や新羅に頼み込んで家庭教師をしてもらったりして、モチベーションをあげた。それまで毎日のようにやっていたチャットも勉強に集中するためにやめたし、勿論ゲームも。お母さんに、熱が出たのかなんて心配されてしまった。弟は気持ち悪いだなんてぬかしやがった。酷い。

 変な面々と絡んでいるせいで、数少なくなってしまった友人たちにも、私が遊びのお誘いを断り続けてまで勉強している姿を知られ、頭を心配されてしまった。とうとう、本気でいかれちゃったんだね、可哀そうに、とか。どうやら、外傷を心配されたのではなくて、中身のことを心配されたらしい。よくよく考えてみれば、最初から外傷なんて存在しなかったのだが。それにしても失敬な。

 「勝ったら二度と臨也と口を聞かないでいい」なんて口ずさみながら、やっと勉強地獄の一週間が過ぎ、テスト当日。三日間全部、私は持てる力の全てを出し切った。手ごたえは上々。これならきっと臨也にも勝てると思った。

 そしてテスト最終日の帰り道。運がいいのか悪いのか、偶然にもそんな臨也と出くわしてしまった。家の方向的には一緒だから、別に出くわすこと自体は珍しいことではないのだが、勉強に集中していたせいでほぼ一週間会っていなかった臨也にあった途端に、少し動揺してしまった。鼓動が少し早くなった気がするけど、多分それはきっと私が勝ったかもしれないなんて歓喜から来ているのだ。こんなにも長い期間会わないなんてことなかったから、久しぶりに会えてうれしいだなんて思って動揺したなんてこと、絶対にない!

 臨也の方が前の方を歩いていたから、先に気付いたのは私で、でもすぐに臨也も私に気が付いた。完全に振り向いて、ひらひらと手を振っている。私は走った。

「や、久しぶり」
「ほんと久しぶりだよねえ。君がずっと勉強してて、話しかけられなかったから。で、テストどうだったの?」
「(ん? なんか違和感っていうか、ひっかかる……)それがね、いつもはない手ごたえがあるんだよね! 絶対臨也に勝つから」
「ふうん、そっか。楽しみにしてるよ」

 じゃ、なんて言ってそれだけで臨也は勝手に一人で帰ろうとするから、私は思わず呼びとめた。臨也が不思議そうな顔をしている。――自分でもなんで呼びとめたのかわからない。けど、なんか、そんな簡単に前は会話終わらせてたかなあって思って。そうしたらもやもやしてきて。ちょっといやだなとか思って。嗚呼、もうぐちゃぐちゃ。

「どうしたの、。用がないなら、俺急いでるから」
「あ、ごめん。なんでもない。ばいばい」
「そ。じゃーね」
 
 結局引き留められなかった。臨也は行ってしまう。って、私はなんでこんな寂しくなるんだろう。なんで行かないでほしかったとか、もうちょっと話したかったとか思っちゃったんだろう。いつもなら、うざいほど臨也から絡んでくるから、逆に早く帰れとか一人にしてくれとか思うのに。
 なんだか、あんなにムカついたのが、ちょっと変わって、胸が苦しい。どうしてくれんの、臨也。ムカつく。

駆け引きアンチテーゼ
(この苦しさは、なに!)

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