思わずため息を零した。

 高層マンションの最上階から見る都会の夕焼けは、美しいが何故か物寂しさを感じる。
 部屋の主である臨也のアームチェアに腰を下ろしたは、改めてそこから見える風景に感動した。
 初めて来た時はここから見る風景は新鮮で楽しかったが、慣れてくるに従って、徐々に興味を失っていった日常の光景。
 再び見ようと思ったきっかけはなんだったか、きっと些細なことだったのだろうが、気付いたら彼女は窓ガラスにべったりと張り付いて、世界を見下ろしていた。

「どうしたの」

 不意に、背後から声が聞こえた。
 が反射的に振り返る前に、そのまま抱きすくめられる形で、声の主に密着される。
 微かに香るベルガモットの匂いに、彼が今日仕事で外出していたことを思い出した。

「臨也。帰ってたんだ」
「うん、気付かなかったから自分で鍵開けたんだよ」
「ごめんなさい、お疲れ様」

 そう言うと、彼は拗ねたように、心が籠ってない謝罪だと小さくごちる。
 勿論それが聞こえなかったはずのないは、自分より年上の青年の幼さに、内心苦笑した。

「どうすればいいのよ」
「考えてごらんよ」
「分からないわ」
「俺に答えを求めないで」
「じゃ、これで」

 抱きしめられた腕の中で、器用に身体をずらして、彼にキスをした。
完全に思いつきの行動だったが、彼が求めていたものとしては、あながち間違いでもなかったようで、そのまま頭を優しく抱えられて、深く溺れる。
 この行為にももう慣れたもので、上手く息を吸いながらちらり、と一瞬目を開けてみると、彼の長く美しい睫毛が目に入り、胸の鼓動が早まったのを感じた。
 やがて、押さえられていた手の力が無くなったことに気付いてが再び目を開けた時には、銀色の糸が二人をつなぎながらゆっくりと臨也が離れていた。
 息を整えるように肩で呼吸をしていると、余裕そうな表情の臨也がにやりと笑う。

「そんな気分だったの?」
「謝罪よ」
「それにしては随分と君が気持ちよさそうだったけど」
「自惚れないで」
「これはこれは、失礼しましたお姫様」

 にっこり笑いながらそういう臨也に対して、今度はが拗ねる番であった。
 自分に絡まった腕の中から抜けだし、アームチェアから降りると、出来るだけ彼から離れるようにずいっと窓の近くまで歩を進める。
勿論臨也がその後、ゆっくりと自分を追って、再び抱きしめることも想定内で、それは振りほどくことはしなかった。

「気持ちが籠ってない謝罪ね」
「じゃあ、何をしようか」
「聞くなんて、野暮じゃないの?」
が今日は自分で言いたい気分じゃないのかなって思ったんだけど」
「言わせたい気分の間違いじゃない?」
「自意識過剰だね」
「この夕焼けに妬いたくせに」

 抱きしめた腕の力が強くなって、苦しさを感じる。
 抵抗するように身をよじり、臨也を見ると――いい笑顔である。

「寝室に行こうか」

 何を言う隙さえ与えずに、お姫様抱きという形を取られた。
 これからされる行為に対しては、疲れるだろうなあと少なからず面倒くささは感じたが、同時に自分の言った予想が当たったということに、それよりも大きな嬉しさを感じた。
(彼が、本当に可愛くて愛しい)
 くすりと笑って、気付いた。
 美しいが何か物寂しさを感じる夕日は、彼に似ていると。



横顔に紅を差す







臨也さんの言葉減らしすぎた。
でも、臨也さんなら例え短い台詞を言っててもウザいって信じてるよ……!

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