人間とは退屈を嫌う動物である。君だってそうだろう?

「折原臨也さんですね?」
「そうだけど……君は?」
「失礼。貴方に生きることの楽しさや意味を教えていただきたくて」

 いきなり俺の目の前に現れたと思えば、矢継ぎ早にそう質問してきた女がいた。
 いた、と過去形で表わしたが、これは現在形、いやもっと正確に言うのならば現在進行形の話なのだが。まあこれは関係のない話だった。
 とにかく俺は彼女がしてきた突拍子もない質問の真意を、しばし考える羽目になったのだ。

「道徳的な答えはやめてくださいね、貴方はそういう人間じゃないでしょう?」

 まあ、そうだけど。
 しかし、丁度当たり障りのない答えだと思って、道徳的観念から答えようと思っていたから、少し詰ってしまう。
 ――何だろう、この子。
 外見的には特徴といったものはない。普通にどこにでもいる女の子。年は18くらいに見えるけれど、目分量、目分量。時々びっくりするくらい外見と実年齢が違う人間もいることだし。化粧はしていないようだが肌が綺麗だから、その見立てに自信はある。
 中身は単なる馬鹿か、もしくはあえて危険に飛び込もうとする好奇心旺盛タイプか。俺がどういう人間か知った上で話しかけてきたのだから、どっちにしろ度胸があることは確実だ。
 補足として、胸がでかい。
 結論。まあ、面白いんじゃないかな。

「さあ、君はどんな答えを待っているのか分からないし、答えようがないなあ」
「私はどんな内容であれ貴方自身の言葉を待っていますから、余分なことは考えなくてもいいと思いますが」
「余分なことねえ、言ってくれるじゃない。まあ、この会話自体は余分だと思っていないようだし?」

 揚げ足をとってみた。追い打ちをかけるように、わざとニヤニヤと笑ってやる。
 さてと、彼女はどんな反応を示すだろうか。羞恥に、もしくは憤りにでもいいけど、顔を真っ赤にして口をつぐんでしまうだろうか。意外に冷静に反抗してみるとか。本当に馬鹿だとして、言葉の意味が分かっていないっていうのもあるな。どの道、俺が予想したものと全く違う行動をとってくれればいいんだけどさ。
 だからさあ、さあ、さあ。魅せてくれよ、君の反応を!

「……」

 彼女は真っ赤になった。俺が予想したものその一にそのままあてはまる行動だ。
 全く期待はずれだった。
 大きな魚だと思って釣ったら、溺れたおっさんだったような、そんな期待外れを上回りすぎて、一回転して吃驚しちゃう感じの。
 もし俺の期待に添えるような反応をしてくれたなら、俺の考えている生きる意味とかそういうものも、教えてやってもいいなとか思っていたが、これでは言う価値もない。
 なんだか、ここで割いた時間も、損した気分だ。

「あの」

 彼女に話しかけられた。だがごめん、俺は興味がない。
 その巨乳は確かにいいと思う、武器だと思う。
 けど俺はそれだけじゃ振り向かないし、なにより面白い、良い意味でぶっ飛んだ人間性がなきゃ駄目だ。
 きっと、つまらない人間の君は今からこう言うだろう? 「早く教えてくれませんか?」とかさ。
 嗚呼、まったく型に嵌りすぎていることほど、退屈なことはない。

「そういう悪役らしい、意地悪な感じが好きです。そう、好きなんです、折原臨也さん!」

 どうやら俺の方が型に嵌っていたらしい。
 
 
 

馬鹿と阿呆

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