※微エロ注意!


 高校三年の夏。受験勉強シーズンまっただ中である。
 受験にシーズンもへったくれもあったもんじゃないけど。あえてシーズンがあると仮定するのなら、一年中だろう。受験生という主観的な立場から見るのではなく、社会全体から客観的に見たらつまりは毎年の如く。あれ、敢えてという前提を置いても、シーズンなんてない。
 とまあ、前置きはさておき。とりあえずこの夏休み、私たち進学予定者は、高校生活最後のひと夏の思い出を作るよりも、受験勉強をしなければならないという義務があった。
 なのに、である。なのに。なのに――。

ちゃん、遊ぼっかー」
「なんで臨也、あんた毎日うちにくるのよ!」
「え、なんでって……将来の婿としての義務?」
「私はあんたに嫁ぐつもりはない!」

 ――ていうか、あんたと付き合ってすらいない!
 臨也はにへらと笑って、そうだっけ? キスまでした仲なのに、なんてとぼけたことを返してきやがった。
 勘違いを起こすようなことを言っているが、キスをしたのは小学校の時に事故でである。それからは一度もしたことがない。
 うざかったから、箱ティッシュを投げておいた。かわされた、うざい。
 さて、夏休みに入ってから、もう幾度目かのこのやり取り。慣れることはないのかと言われれば、面倒くさくはなってきていると即答したい今日このごろ。うざやと陰でよばれている(主に私と新羅によって)臨也が、そんな私の反応を見て面白がっているということも知っていながらのこの暴挙。ていうか、あいつが単にちょっかいかけてくるのが悪い。私の反応は条件反射なんだ。つっこまずにいられないんだよ馬鹿野郎。

「あつーい。クーラーつけようよー」
「あんたねー、何回言ったら分かるのよ。クーラー今壊れてるんだって」
「えー」
「嫌なら家に帰れ、その方が私も嬉しい」
「やだよ、舞流と九瑠璃いるし」
「いいじゃん。あの子たち可愛いし面白い」
「脳みそ大丈夫?」
「本当のことじゃない」
「……なんていうかさー。ほんとって包容力があるっていうか」
「あら褒められちゃった」
「皮肉だからさー」

 あちいーと言いながら、私の飲んでいた、氷たっぷりのカルピスに口をつける臨也。
 間接キスとかは慣れているから別に大したことはないんだけど、なんだか満足気な表情が気に入らない。私ばっかり受験勉強とか臨也からの被害を被っているのに、加害者であるこいつがいい思いをしているというのが嫌だ。というか、根本的なところから言って、それ私のだし、飲むな。
 無言で、やや強引に取ろうとすると、臨也はぷいっとそっぽを向いてしまった。やつは意地でも離さないつもりである。そんなに飲みたいなら、うちの勝手も分かっていることだし、取りに行けばいいのに。面倒くさいのか。これ以上汗かきたくなくて動きたくないのか。なんて考えたら、私も意地でも取り返したくなってきた。

「あたしのだっつの」
「これは俺が貰った、だから俺の。は自分で持ってくれば?」
「あーもうほんと死ねばいいのに」
「ね、ちょっと! 蹴ってくるのやめてよ! 零しちゃうじゃん」
「零さないように蹴られなさいよ!」
「ちょちょ、まじ冗談じゃないから。おとなしく勉強しろ!」
「なんで命令口調なのよ気に入らない! 零すの嫌ならおとなしく渡せ」
「やだね。それとこれとは別問題!」
「この馬鹿いざ……あ」
「あ」

 説明しよう。口論。キレた私が静雄から直々に伝授してもらった蹴り(といっても、理論ではなく経験で。いやー、いろいろと痛い思い出だ)を繰り出す。かわされ、また口論。もう一度蹴り。その蹴りが、臨也自体はまたかわしたのだが、臨也の持っていたカルピスのコップに当たってしまった。コップが宙を飛ぶ。動けない私。数秒後、冷たい雨が降ってきた。
 要するに、私はカルピスを頭から被ってしまったのだ。
 視界の中、前髪から半透明の水が滴るのが見えて、その奥で臨也があまりの出来事に吃驚したような表情をしているのが見えた。
 ――臨也ってこんな顔もできたんだ。してやったり。じゃなくて。

「つめたっ!」

 カルピスでべたべたなのは生理的にいやだけどまだいいとして、たくさん入っていた氷がいろいろなところに入ってしまったのである。
 いくら暑くて涼しいのがいいといえども、これはやりすぎだ。冷たすぎて、ちょっと痛い。
 取ろうとして背中に手を這わせてみたが、数個は運が悪いことにブラに巻き込まれてしまったようだ。一人の時ならいざ知らず、臨也と一緒にいる時など取れやしない。溶けるまで待つのもキツイ。
 さて、どうしよう。

「臨也ー」
「……な、なに?」
「(あれ、なんでいきなり顔赤くなってるんだろう? そういうキャラじゃないけど、まあ、いっか)やっぱちょっと家に戻って!」
「なんで?」
「いや、ちょっと、氷がなんか変なとこにひっかかったみたいで取れなくて……。お風呂も入りたいしさー。後から来てもいいから今は一回」
「俺がとってあげる」
「は?」
「だから、氷、とってあげるって言ってるの。ほら、後ろ向きなよ」

 いやいやちょっと待て。
 やけに臨也が善人なのはさておき、これでも年頃の男女がそれはない。だってブラをずらすか外すかしないといけないんだよ? ちょっとエロい恋愛ゲームのイベントかっつーの。ギャルゲーとかさあ。
 冗談かと思ったが、臨也は本気のようだった。ほら早く後ろ向いて、だなんて急かしてくる。まじか。
 いやしかし、ここまで臨也が言うんだ。きっと、エロいとかじゃなくて何か別のことを考えているに違いない。それこそ、本当に100%善意だとか。ここで私が素直に言うとおりにしなかったら、あたかも私がいやらしい想像をした感じだ。それは絶対に駄目。
 しぶしぶと、本当にしぶしぶと臨也に背中を向けて、Tシャツを捲くった。

「……お願い」
「ん。ちょっと待って、ブラ外すから」
「え、外し方分かるの」
「そりゃ、こんなの見れば分かるでしょ。まあ、舞流はともかく九瑠璃も持ってるしね、洗濯物でよく見る。ほら、はい。氷も取れた」
「あ、うん、ありがとう」

 胸が非常にすーすーする。危なげな状態だ。
 ともかく私は臨也に礼を言って、再びブラをつけることにした。
 だが、その手が途中で止められる。
 冷たい手に、思わず身体がびくりと反応してしまった。

「ちょ、何やってんの……」
「据え膳食わぬは男の恥ってね」
「や、ちょなんで! 付き合ってもないのに!」
「あのね。好きな女の子のこんな姿見て、大丈夫な男はいないよ」
「好きな女の子って……」
。好き」
「あ、いざ

 
暗転
 
 
 

カルピス漬けあたりから、プロット無視の構成!
本当はギャグで締めるつもりだった。
反省はしているが後悔は(本格的なエロを書かなかったこと以外)していない。
 
 
 
 
 

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